今回は、【大分県】の女性リーダー猪熊真理子さんです。
猪熊さんは、女性のキャリア支援や組織改革に取り組む経営者で、上場企業の社外取締役や全国の起業家支援など幅広く活躍されています。また、昨年開催された瀬戸内の経済カンファレンス「BLAST SETOUCHI2024@大分」では実行委員も務められました。
今回は、そんな猪熊さんに、ご自身の原体験や、地方の女性活躍について、また都心と地方の関わり方について伺いました。
猪熊 真理子さん
OMOYA Inc. 代表取締役社長
女子未来大学ファウンダー
東京女子大学心理学科卒業。学生時代に女性の自信形成に興味を持ち、心理学を学ぶ。認定心理士。2007年(株)リクルートに入社。「ゼクシィ」や「Hot Pepper Beauty」などの事業で事業戦略、ブランドプロモーション戦略、マーケティングなどに携わる。会社員の傍ら、「女性が豊かに自由に生きていくこと」をコンセプトに、講演やイベント、セミナーなどで女性支援の活動を行い、高校生から70代の女性まで延べ5千人を超える女性たちと出逢う。2014年2月にリクルートを退職し、3月に株式会社OMOYAを設立。株式会社OMOYAでは、経営・ブランドコンサルティングや企画マーケティング、組織のダイバーシティ・マネジメント改革、企業内の女性活躍推進、新規事業開発、地域開発、イントレプレナー育成、起業家支援などを行う。
33歳で上場企業の社外取締役に就任。その他多数の企業や社団法人の取締役、役員、顧問などに従事。起業家支援では、日本全国の経済産業省や地方自治体で、メンター・講師・審査員などを務め、BLAST SETOUCHI大分を実行委員と共に主催するなど、スタートアップカンファレンスや地域カンファレンスなどにも関わる。
社会人女性の学びの場「女子未来大学」ファウンダー。多様な価値観の多様な幸せを女性たちが歩めるような未来を目指して女性のキャリアや心理的な支援活動などを行っている。著書に『「私らしさ」のつくりかた(猪熊真理子著・サンクチュアリ出版)』
自分自身を救うための問いから始まった
――猪熊さんが女性支援に取り組むようになったきっかけは?
もともとは、自分自身にまったく自信が持てなかったことが原点なんです。そこから、大学で心理学を学ぶ中で、これは自分だけの問題じゃなく、周りの女性たちも同じように「自信がない」と悩んでいることに気づいて。日本って物質的には豊かな国なのに、なぜこんなに心が満たされない人が多いんだろう?という問いから、女性たちが自信を持てる社会をつくるにはどうしたらいいか、考えるようになりました。
選択肢は増えた。でも「何を選べば幸せか」は誰も教えてくれなかった
――女性活躍の話になると、「いまは選べる時代」だと言われますが、逆にしんどさもあると感じます。
ほんとにそうなんです。私たち世代って、母世代に少しずつ増えてきた働く女性像と祖母世代の専業主婦像の狭間で育ってきていて、「どっちもできて当然」という無意識のプレッシャーがあるんです。
いわゆる「普通」と言われるような、“教科書通り”の生き方や働き方って、男性側はここ数十年あまり変わっていないんですよね。学校を出たら社会に出て働くというモデルが父親世代も祖父世代もずっと続いている。
でも女性は、祖母世代では家庭に入るのが当たり前、母世代ではキャリアウーマンのような働く女性が少しずつ出てきたけど、男性より何倍も努力しないと評価されないような時代だった。
その中で、専業主婦もキャリア女性もお互いに「隣の芝生は青い」と思いながら、複雑な葛藤を抱えていた。そして、そんな両方の価値観を受け継いで育ったのが私たち世代。「女の子なんだからお手伝いしなさい」と言われながらも、「女性も働ける時代だから、しっかり勉強して、いい会社に入りなさい」とも言われる。“家庭もキャリアも”のハイパーウーマン像が無意識のうちに押し付けられていた気がします。
――確かにそれは感じてきたかもしれません。
選択肢は増えたけど、「自分にとって何が幸せなのか」を選ぶための軸は、誰にも教えてもらってこなかった。親の世代をそのまま真似することもできないし、自由に選べるからこそ、自分の価値観に向き合わざるを得ない。だからこそ、多くの女性が混乱しているんだと思います。
「意識・実力・環境」の三本柱が、女性活躍を支える
――「地方の女性の活躍」というテーマについては、どう捉えていますか?
地方に限らず、女性活躍全般に言えることですが「意識・実力・環境」の三本柱が揃って、初めて女性が本当に活躍できると考えています。
まず意識の部分では、地方はロールモデルがいないことは大きな課題だと思います。ただ単純に「管理職になって」と言われても、それを魅力に感じられなければ誰も挑戦しない。それよりも、自分の強みや貢献できる場所を知る“自得”のプロセスが大事だと思います。そして、そのための学びやマネジメントが必要だと感じています。
次に実力。これはスキルだけでなく、人間力も含めた信頼される力。特に地方の企業では、優秀な女性人材が「このままでは働けない」となったときに初めて企業側が離職を防ごうと社内の制度を整え始めるケースが多い。だからこそ、女性自身が実力をつけていくこともすごく重要だと思います。
そして環境。ここもすごく大きい。その会社がそもそもどう考えているかとか、女性たちが本当に活躍したいと思っているのかどうか。思っている理由が何なのか。さらに、子育ての環境だったり、男性たちの意識だったり、そういう周囲の条件もすべて関係してきます。この三本柱は、どれか一つだけじゃダメで、全部が一緒に向上していかないと、女性たちが活躍できる状況にはならないと思っています。
――そうした変化を生み出すには、何が必要だと思いますか?
意識や制度が整っていない地域でも、「それでもやっていこう」と思う人たちがいれば、きっと変化は起きると思います。外部からの働きかけだけでなく、一人の社員でも、女性が活躍できる世界を作りたいと思って他社の事例を調べて行動するなど、中から自分の会社を変えていくような情熱がある女性が増えてくると、それも女性リーダーと呼べると思います。
ただ実際は、外で学んだ女性たちが自組織に戻った時、声が小さくなってしまうことも多いです。それはすごくもったいないので、単なる「集まり」で終わらない、戦略やナレッジまで共有できる場が必要だと感じています。会社を変えるための武器や知恵を持ち帰れる、そんなコミュニティが増えたらいいなと思います。
――それぞれの現場で、小さな一歩から始める人が増えていくことが大切なんですね。
自分たちのできる範囲で、学び、連携しながら、より活躍できる環境をつくっていく。そんな情熱を持った人が少しずつ増えていくことが、社会全体を変える原動力になるのではないかと思います。
地方で女性同士がつながることの難しさと大切さ
――地方で女性が活躍する難しさについて、どんなことを感じていますか?
一番は、女性たちが横につながる場が圧倒的に少ないこと。東京だと、いろんなロールモデルに出会えるし、対話や出会いの場も多い。でも地方では、そもそも「自分らしく生きている女性」ってどんな人?というイメージすら湧きにくい。情報格差というより、“機会格差”かもしれません。
女子未来大学を2014年に立ち上げて、最初は東京で始めたんですが、「関西でもやってほしい」「沖縄でもやってほしい」と声をもらって展開していったんです。そのとき、たとえば関西ですら、東京と比べると「自分自身に向き合って生きていきたい」と願う女性たちの集まりが圧倒的に少なかった。地域によって、女性が横でつながれる機会自体がとても限られていることを痛感しました。
ただ、SNSなどが出てきて、オンラインイベントとか、情報に接する機会も増えてきた。でも、それでもやっぱり東京と比べたときに、女性たちが自分以外の多様な女性たちを知って、多様な生き方とか、多様な働き方とか、多様な幸福観のあり方を知ることができる機会が、地方は圧倒的に少ないんですよね。
地方だからこそ“注目される”、チャンスもある
――逆に、地方だからこそのチャンスってありますか?
それはめちゃくちゃあると思います。地方はまだまだ女性で活躍している人の数が少ないからこそ、頑張っているとすごく注目されやすいし、行政や地域からの支援も受けやすい。機会をチャンスに変えようという意思があれば、都市部以上に可能性が広がっていると思います。
それに、地域に住む女性たちの背景って本当に多様で。たとえば、地元で生まれ育った人もいれば、パートナーの転勤などで移り住んできた人もいる。後者の場合、その地域に自分の居場所を見つけにくかったり、周囲も「また転勤で出ていってしまうかも」と受け入れに慎重だったりする。でも、そうした女性たちも、暮らす中で地域に愛着が芽生えたり、子どもがその地で育っていく中で「このまちの未来に関わりたい」と思うようになることもあるんです。
私自身もそう。地元は香川で、東京で15年過ごして、今は大分に住んで5年になります。大分は地元じゃないけど、暮らすうちに好きになってきたし、今では「この地域の未来を良くしたい」と思うようになりました。地元じゃなくても、関わる理由はちゃんと持てるし、その人なりの“モチベーション”がすごく大事なんだと思います。
リーダーとして地域で何かをやっていこうと思ったら、困難や努力はつきもの。だからこそ、「なぜこの場所でやるのか」という問いに、自分なりの答えを持っているかどうかが、最初の一歩になると思います。
都心と地方の連携が、社会を変える鍵に
――都市部の人たちが地方に関わる意味についてはどう考えていますか?
地元でもいいし、旅行で訪れて好きになった地域でもいい。大切なのは、何かしらその土地に対して愛情や情熱が持てるかどうかだと思います。たとえば「沖縄が大好きで、もっと多くの人に魅力を伝えたい」とか、「ここで出会った人や文化をもっと知ってほしい」とか、それが原動力になると思うんです。
私自身が今こうして地方で活動していてすごく感じるのは、東京時代に築いた人脈がいかに今に活きているかということ。地域と都心って、実は思った以上に分断されていて交流が少ない。でも、都市の価値観やフィロソフィーが入るだけで、地域資源が活かされたり、地域の課題が前進したりすることって本当にあるんです。
もちろん、都心から来た人に対してネガティブな印象を持つ人もいる。でも、だからこそその“混ざり合い”の中で新しい発見やイノベーションが生まれる可能性もあると思っています。
――実際に地域と関わっていくには、どうするが良いと考えますか?
その土地の“コミュニティリーダー”とつながることが大事だと思います。観光だけしてもあまりその地域の本質的な魅力って分からないと思うので、その地域のコミュニティリーダーたちと連携して、こういう目的でこういう地域を見に行きたいとか、知りたいって気持ちで地方に来てくれた方が、より実践的で、その地域を深く知る入り口になると思います。
女性のリーダーも各地にちゃんといるので、そういう人たちがもっと横でつながっていけば、地方同士の関係も深まって、解決できる地域課題も増えていくと思うんです。たとえば、瀬戸内の人たちが抱えている問題は他の地域でも起きていることって沢山ありますよね。だからこそ、横の連携が生まれると解決する地域課題ってすごくあると思います。
今後やっていきたいこと
私は、人が本来持っている“本人すら気づいていない可能性”を引き出すことが好きなんです。それが誰かの役に立つかもしれないし、世の中にとっても素晴らしいものかもしれない。そういう可能性を引き出して伝えていくというのは一つ私の役目なのかなと。
企業の中での女性活躍推進、自信がない女性へのサポート、起業家支援。どんな場面でも、その人らしさを見つけ、それを発揮できる場所で活躍できるよう寄り添いながらサポートする。そういうことを、個人にも組織にも社会にも、全方位でやっている感じです。
個人の人生が変わる瞬間に関われることも、組織が良い循環を生み出すよう変化していくのも、社会全体が少しずつ良くなっていくのも、どれもすごく面白い。だから私は、これからも一人ひとりと向き合いながら、あらゆるレイヤーで関わり続けていきたいと思っています。
4歳息子と夫と大分で3人暮らし
いかがだったでしょうか?
猪熊さんとお話ししていると、いつもその温かさと冷静さに包まれながら、自分の想いやその奥にある意図や可能性を静かに引き出してもらえる感覚があります。
制約が多いと言われる地方だからこそ、一人の行動が未来を動かし、そして、都心と地方の連携が社会を変える。そんな希望も感じさせてもらえたインタビューでした。
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