第一回のインタビューは【愛媛】の女性リーダー「村上茉利江さん」です。
愛媛企業のアトツギ経営者で、女性では珍しいJリーグクラブの取締役としても今注目されています。
村上茉利江氏
株式会社愛媛FC 取締役
ニンジニアネットワーク株式会社 取締役
株式会社東洋印刷 専務取締役
TOBEMORI SEEDS代表
「日本アイ・ビー・エム株式会社」に新卒でコンサルタントとして入社。在職中は事業戦略のコンサルティングワークに従事。その後、実行支援型の組織変革を専門とするコンサルティングファーム「株式会社アバージェンス」に転職。20代で最年少プロジェクトマネージャーに抜擢され、目に見える成果創出をリードした。
約6年間のコンサルタント経験を経て、2016年に家業である「株式会社東洋印刷」と「ニンジニアネットワーク株式会社」に管理本部責任者として入社。「ニンジニアネットワーク株式会社」では営業責任者も兼務する。
2021年からは「株式会社愛媛FC」に取締役として入社。コーポレート本部、ビジネス本部の責任者を務める。コミュニケーションデザインをテーマに第二の成長カーブを描くべく邁進中。
2024年度から愛媛県総合運動公園の指定管理者となった民間企業5社からなる「TOBEMORI SEEDS(トベモリ シーズ)」の代表を務める。
多角経営の挑戦──印刷業×スポーツ経営×まちづくりの戦略
――まずは、茉利江さんの現在の主な事業について教えてください。
大きく分けると三つの事業を進めています。
1. 東洋印刷の運営
- 1946年に設立された会社で、父が三代目社長を務めています。
- 以前は鰹節のパッケージ加工を行っていましたが、現在は宛名ラベルや医療・物流・食品系のラベルを製造・販売。
- 最近はDM需要の減少により、新たな分野への事業拡大を模索中。
2. 愛媛FCの経営
- 2017年に父が愛媛FCの社長に就任。
- 連続赤字の状況から、経営改革を進める必要があった。
- 2019年に大規模な組織改革を行い、自身も取締役として参画。
- 現在は経営基盤を安定させ、次の成長フェーズへ移行中。
3.スタジアム周辺のまちづくり
- スタジアムを中心とした地域活性化プロジェクトを推進。
- 愛媛FCの成長とともに、地域社会との連携を深める取り組みを行っている。
――これまでの経営の転機や課題は何でしたか?
東洋印刷では、ラベル業界の変化に対応するための事業拡大が課題でした。一方、愛媛FCでは財務健全化や経営改革が大きな課題でした。特に2019年の資本増強や組織改革は大きな転機でしたね。
――現在、どの事業にどれくらいの割合で力を入れていますか?
時期によって異なりますが、最近までは愛媛FCに9割のリソースを割いていました。しかし、組織の基盤が整ってきたので、現在は東洋印刷やまちづくりのプロジェクトにもバランスよく取り組んでいます。
――事業運営の中で特に難しいと感じる点は?
やはり「人間関係の調整」が一番大きな課題ですね。特に愛媛FCでは、組織内の信頼関係が業績に直結するため、問題が発生した際には早期に修復することが重要です。新しく迎えたマネージャーが組織に馴染めない場合もあり、その適正配置を見極めるのも大きな仕事です。
――問題が発生した際の対処方法は?
まずは当事者間の意見をヒアリングし、複数の視点から状況を把握します。そして、適材適所の配置を見直しながら、必要であれば私自身が直接関わり、解決へ導くようにしています。
――今後の展望を教えてください。
愛媛FCをさらに成長させるとともに、東洋印刷の事業拡大を進めていきます。また、スタジアム周辺のまちづくりを通じて、地域との連携を深め、新たな価値を生み出していきたいと考えています。
キャリアの転機、家業承継で直面した課題と突破口
――キャリアの中で大きな転機となったのはいつでしたか?
IBMを辞めて、アバージェンスという組織変革コンサルに転職したときですね。普通のコンサルとはちょっと違って、マネジメント理論を突き詰め、組織にインストールしていくことで管理職のマネジメント力を高めることを目的としていました。特に「CEOを輩出する機関を目指す」と掲げていたのが魅力的で、自分が家業の後継ぎとしての修行をするには最適な環境だと思い、転職を決意しました。
――転職後の環境はどうでしたか?
最初から、トップの方と週に一度「お稽古」と称して、社長としてのマインドを鍛える時間をもらっていました。4~5時間にわたってディスカッションし、マネジメントや経営者としての考え方を徹底的に叩き込まれ、それが今の土台となっています。
――最も大変だった経験は?
29歳で初めてプロジェクトマネージャーになったときですね。40代、50代の課長・部長にマネジメント指導をするという立場だったのですが、当時の私はマネジメント理論は理解していても、実践的な経験が不足していました。さらに、5,000万円規模のプロジェクトを任され、もし失敗したらこの金額が吹っ飛ぶというプレッシャーがすごかったです。精神的にも追い込まれて、耳鳴りがするほどのストレスで、何も言わずに実家に帰り、海を眺めて気持ちを落ち着けたこともありました。
――そこからどう乗り越えましたか?
とにかく本を読んで思考を整理し、気持ちをリフレッシュすることを続けました。でも、会議の進行やプレゼンの資料作成など、実務面でのスキル不足も痛感していました。そんな中、経営企画室の厳しい室長から「彼女はプロジェクトマネージャーとしての役割を果たしていない」と大クレームを受けてしまいました。
――そのクレームにどう対応したのでしょうか?
そのクレームを、1週間に一度指導を受けていたトップの方がフルバーバルで読み上げたんです。一言一句そのまま。それを聞いた瞬間、吹っ切れました。自分の無能さはすでにバレている、だったらできることをやるしかない、と。そこからは怖いものがなくなりましたね。「あの時に比べたら何でも乗り越えられる」という精神的タフネスを得ました。
――家業に戻ってからの課題は?
家業に戻ってからは、父との価値観の違いが最大の壁でした。私はコンサル出身で、ロジカルに結論を出すタイプでしたが、それが父には「偉そう」に聞こえたようで、何度も大喧嘩しました。特に、経営判断のスピード感や、データを重視する考え方に大きなギャップがありました。
――それをどう乗り越えてきましたか?
最初は自分の考えを通そうとして衝突ばかりでしたが、時間が経つにつれ、父の経営哲学を理解しようと努めるようになりました。親だからこそ、「父はこういう経営者であってほしい」という理想や葛藤、思い込みもありました。でも、会社の歴史や地域社会との関係性を学ぶことで、彼の経営手法にも意味があると気づいたんです。そこからは、互いの強みを生かしながら、少しずつ歩み寄る努力をしてきました。
スポーツで地域の未来をつくる
――今チャレンジしていることは何ですか?
今はスタジアム建設プロジェクトに取り組んでいます。地域の活性化を目的とした大規模プロジェクトで、スポーツやイベントの開催を通じて、町に新しい経済の流れを作ることを目指しています。
――どのような課題がありますか?
資金調達が大きなハードルです。地方都市での大規模投資はリスクが高いため、自治体や企業との連携が欠かせません。また、地域住民の理解を得ることも重要です。特に高齢化が進む地域では、新しい試みに対する抵抗感が強く、「本当に必要なのか?」という声もあります。そのため、住民説明会を何度も開き、スタジアムがもたらす経済効果や地域貢献の可能性を伝えることが大切になってきます。
――今後の目標は?
スタジアムを単なるスポーツ施設ではなく、地域全体のシンボルにすることです。試合やイベントがない日でも、地域の人々が集まる場として機能するよう、商業施設やコミュニティスペースを併設する計画を進めています。地方の未来を見据えた持続可能な経営モデルを作り、次の世代に引き継げる仕組みを構築することが、私の使命だと思っています。
地方ならではのメリットと課題
――まりえさんは現在、東京と愛媛の二拠点生活をされているということですが、地方でのビジネスや活動で感じる課題は何ですか?
やっぱり地方で一番感じるのは、“出る杭は打たれる” という風土ですね。地方は保守的な傾向が強いので、何か新しいことをしようとすると、『そんなのまだ早い』『この街では受け入れられない』といった反応を受けることが多いです。
――具体的にそう感じたエピソードはありますか?
例えば、愛媛であるセレモニーやパレードを行ったときに、私が出ることに、地元の経営者から『まだそのレベルじゃない』と言われたり、周りの目を気にするべきだという指導を受けたりしました。周囲の評価を気にしすぎる風潮はあると思います。
――やはり、村社会的な風土が影響しているのでしょうか?
そうですね。暗黙の了解というか、『みんなで一緒にやっていくのが大事』という文化があります。だから、目立ちすぎると村の掟に反するような感覚があるんですよね。でも、その“目立つこと=悪”という考え方が、結果的にイノベーションを阻んでいる面もあると思います。
――逆に、地方で活動することのメリットは?
課題が多い分、やりがいも大きいですね。自分の力を生かせるフィールドが広がっています。ただし、挑戦し続けるには、“潰しにかかってくる人”との戦いも必要になります。でも、逆に言えば、思い切って突き抜けてしまえば、それを止める人はいないとも思います。
地方の女性活躍について
――地方で女性が活躍する上での障壁は何でしょうか?
アンコンシャス・バイアスは根強いですね。特に地方では、『女性は目立たない方がいい』という風潮があり、男性以上に叩かれることもあります。私の場合は、父が個性的だったおかげで、逆に“救世主”のように見られて応援されることが多かったのですが(笑)、そういう環境がなければ厳しかったかもしれません。
――地方の女性リーダーを増やすために、何か一つできるとしたら?
ネットワーキングの場を増やすことかなと。県内だけでなく、県外の女性リーダーともつながれる機会を作ることが大事だと思います。孤立してしまうと、『何のために頑張っているのか』という気持ちになりがちですが、他の女性リーダーと交流することで、モチベーションが上がるし、新しい視点を得ることもできます。
こんな人と繋がりたい、学びたい
――今後、どんな人と繋がりたいですか?
地方で頑張っている女性リーダーですね。跡継ぎでなくても、新しい挑戦をしている人と話がしたいです。また、まちづくりに関わっている人の話も聞きたいですね。まちづくりは、住民や自治体、複数の企業を巻き込む大きなプロジェクトなので、その合意形成の仕方などを学びたいです。
――女性リーダーの活躍をもっと知りたいということでしょうか?
そうですね。大企業の女性リーダーは目にすることが多いですが、地方の中小企業やスタートアップで活躍している女性の情報は少ないので、そういう方たちの話をもっと知りたいです。どのようにして成果を上げ、地域にどんな影響を与えているのかに興味があります。是非そういった皆さんとも繋がれたらと思います。
ドイツ・SCフライブルクで堂安律選手が出場している試合にて。フライブルク市長と共に。
いかがだったでしょうか😊
アトツギならではの苦悩や課題はありながらも、常に前向きに経営に取り組まれているまりえさん!今まさに女性リーダーとして、愛媛を引っ張っていってくれています。
ここまでお読み頂きありがとうございました!
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